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トンネル工事に用いる「防音扉」開発物語

株式会社谷沢製作所 営業部 谷澤直人


 発破を用いるトンネル掘削工事になくてはならないのが、坑口に設置する防音扉です。トンネルの坑口が人家に近い場合には、夜間に行う発破の音を抑えるために、この防音扉を設けます。また、海に近い掘削現場では漁場との関連で設置したり、山間部ではオオワシなどの営巣地を配慮して設置したりすることもあります。
 「ヘルメットのタニザワ」は防音扉のメーカーでもあります。

 

「防音扉」第一号

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建込中の第一号扉
 谷沢製作所は昭和26(1951)年より、他社に先駆けて換気用布風管の生産を開始し、送風機とともに全国の炭坑や鉱山、トンネル掘削現場に向けて販売してきました。販売先の現場では換気対策だけでなく、様々な相談を頂戴し、そこから新しい保護具や設備を数多く開発して参りました。
 そのような中、昭和63(1988)年に大船渡で行われていた国道45号線の改良工事の現場から、「トンネル掘削に用いる発破の音で、近隣の牧場の牛が餌を食べなくなった。発破音を低減したい」という宿題を頂きました。
 当時はまだ、防音扉が使用されるケースがそれほど多くなかったため、現場から相談を受けた当社の営業マンは、その設置例を一度も見たことがありませんでした。
 そこで、懇意にしていた鉄工所の社長と相談しながら、想像力を働かせて一から作り上げました。発破後にダンプカーが出入りしやすいように、工事現場のシートゲートをイメージしたということでした。
 この扉は東レの7000番というたいへん優れた性能を持つ防音シートを鉄枠に垂らしたものです。簡易的な設備でしたが、10dB程度の音圧減衰効果があり、施工者からも苦情を寄せた牧場からも喜ばれました。


鋼鉄製「防音扉」の製作

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小断面トンネルで用いた鋼製第一号扉
 その後、当社ではこのスタイルの扉を新しいトンネル現場に向けて、次々に納入して行きましたが、それから3年ほど経ったころ、他社が製造した鋼鉄製の防音扉に初めて出会いました。その扉を見て、当社の扉とは大きな性能差があることを知り、強い衝撃を受けました。
 そこで、平成3(1991)年、当社でも鋼鉄製の扉を製作しようということになり、構想を開始しました。全くの手さぐり状態でしたので、施工中や使用中の安全を確保するため、小断面トンネル用の小さな扉から取組み始め、次第に大きなものに挑戦して行きました。後年、建築士が行った構造計算により、この初期の鋼鉄製防音扉は、十分な強度を持つことが証明されています。
 このように自己流で作り始め、経験の蓄積で自信を深めてきた当社の初期の鋼鉄製防音扉ですが、先行するメーカーとの競争で負けることが多く、苦戦が続きました。それは、競争の中で当社製品の優位性をデータで示せないことが大きな要因でした。残念ながらその当時、発破の爆風圧にどこまで耐えられるか、扉に用いる吸音パネルの音圧減衰性能はどうかといった製品の本質に関わる重要なポイントが、計量的に説明できなかったのです。


製品仕様の確立

 そこで、平成8(1996)年ごろから、製品仕様の確立に力を注ぎました。まず、当社の防音扉が使われている現場で防音効果測定を繰り返し、データの蓄積を進めました。初めは簡易的な方法で行いましたが、その後、火薬メーカーの協力を得て、精度の高い測定ができるようになりました。このような実際の測定結果の蓄積により、扉の施工状態等、現場条件によって効果はばらつくものの、想定できる効果範囲を製品仕様書上に明記出来るようになりました。
 一方、平成11(1999)年には騒音、振動、低周波等の研究を行っている財団法人小林理学研究所に、当社が用いている防音パネル(グラスウールの吸音材を挟んだ鋼鉄製パネル)の性能データ(音響透過損失と吸音率)の計測を依頼しました。この時に得られたデータはその後、当社製防音扉の信頼性を大いに高めました。
 また、各現場からは当社が製品納入後に効果測定を行う姿勢と、参考資料として提出した報告書の内容を評価していただき、当時、北進を続けていた東北新幹線のトンネル現場では次々と、当社の防音扉が採用されました。


低周波対策

 その後、防音扉の役割として脚光を浴びてきたのが、低周波対策です。発破から生じる音は、音源から離れるにつれて可聴音が減衰し、低周波部分の割合が大きくなります。それにより、切羽から離れた場所では、音は聞こえないけれども発破の都度、窓ガラスやふすまががたがたと振動するといった現象が起きることがあります。
 この低周波を低減するために、音響工学を利用した最新の研究を行っているゼネコンもありますが、一般には防音扉の表面にコンクリートを厚く吹き付けて、質量を増す方法によって対策します。
 しかしながら、扉を建てた後に行うコンクリートの吹付作業は現場を汚すだけでなく、移動や撤去の際にもたいへん不便なため、当社では100㎜厚の鉄枠入りのコンクリートパネルをあらかじめ用意して、扉の切羽側に貼りこむ方法を取っています。これにより、騒音は7~8dB、低周波は5dB程度の低減効果が期待できます。
 なお、使用後のコンクリートパネルは、リサイクル材として有効活用しています。


換気対策と防音対策

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防音扉の上部に取り付けた新型ダンパー。風の通っていない風管を挟み込んでいます。送風時には下あごの部分が開きます。
 平成12(2000)年に「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」が策定されました。これをきっかけに粉じん対策が一層強化され、坑内の粉じん濃度の把握と効率的な換気方法に対する関心が、以前にも増して向けられるようになりました。
 さて、トンネル工事では必ず風管を用いて換気しますが、防音扉を用いる場合には、風管がそこを通り抜けるための工夫をしなければなりません。
 従来は風管用の開口部に回転式の円形ダンパーを取り付けて用いていました。発破をかける時は送風を停止し、この円形ダンパーを回転して管路を塞ぐことにより、音漏れを防ぎます。ところがこのダンパーは、全開しても管路に大きな圧力損失が生じます。その電力ロスによって、年間百万円前後の費用が余計にかかっているという試算があるほどです。
 このため、当社では新たに箱型のダンパーを考案し、送風中止時の風管を挟み込んで遮蔽する方法を考案しました(PAT.P)。これにより、通風時の風管内に圧力損失が生じる要因を取り除くことができました。
 防音設備と換気設備、当社が長年携わってきた両方の経験が生きたアイディアでした。


移動式防音扉

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坑口から坑内に向かって移動中の「移動式防音扉」。側扉は外開き、主扉は内開きしています。
 最近、移動式の防音扉が使われるようになってきました。切羽とともに扉が前進できるように、メーカー各社では扉構造物の下にレールを敷いたり、橇を設けたりといった様々な工夫をしています。当社の場合は、橇とコロを組み合わせた構造にしています(PAT.P)。
 この扉の主目的は、防音ではなく「衝立」です。切羽に近い場所に扉を移動して、発破の後ガスや破砕した岩石で汚れる空間を小さくすることにより、換気とズリ出しの時間が従来よりも短くなり、作業サイクルを短縮することが出来ます。
 扉の移動は重機で曳いて行いますが、トンネル壁面との間隙が極めて狭いことから、そのままではすぐに壁に引っかかり、思うようには前進できません。そこで、工事用車両が出入りするための主扉の両脇に側扉を設け、それを開くことによって左右の空間を広くとることができるようになりました(PAT.P)。また、扉を引く重機の運転者と合図をする者とが、お互いを目視できるようになり、移動作業の安全性が高まり、災害防止にもつながります。
 さらに、主扉を内開きにしたのも特徴です。同時に側扉を外開きにしたために、重量バランスが大変良くなり、移動がスムーズに行えるようになりました。

 このような新提案を盛り込みながら、当社では平成24(2012)年、防音扉の納入件数が延べ200枚を突破しました。これからも換気装置、防音装置を通じて、作業現場の安全施工、環境改善に微力を尽くして参ります。