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「飛鳥」開発物語
「蒸れない帽子を作って欲しい」、日常保護帽をかぶって仕事をされている方からメーカーに寄せられる切実な声です。 特に真夏には、保護帽を脱ぐと髪の毛がシャワーを浴びたようにびしょ濡れになっていることもあります。中には「オレの髪の毛を返してくれ」と言われる方もいます。近年使用されることが多くなった墜落時用保護帽は衝撃吸収ライナーの効果で、直射日光の熱の伝達はある程度遮断されますが、それ以上に高い湿度が不快感をつのらせます。

 

 こういった声に呼応して、平成3年に社団法人 産業安全技術協会から「保護帽検定における通気孔の指針」が出されました。この指針には、安全性の観点から、通気孔つき保護帽における穴の位置、穴の数、開口面積が定められています。これに基づき、保護帽メーカー各社から相次いで通気孔つき保護帽が発売され、今日にいたっています。


平成3年8月
社団法人 産業安全技術協会
保護帽検定における通気孔の指針

保護帽の帽体に通気孔をあける場合は、次の各項によることが望ましい。

(1)保護帽は、その帽体に通気孔を設けることによって性能が低下しないよう十分に考慮されたものであること。
(2)通気孔の位置は、帽体の左右側面であること。
(3)通気孔は、その直径が6mm以下又は1個の面積が30平方ミリメートル以下とし、一側面での穴の合計面積は160平方ミリメートル以下、両側面での合計面積は320平方ミリメートル以下であること。なお、これらの穴は近接して設けないこと。
(4)通気孔部を防護し又は補強できる雨除け構造等が設けられている場合は、前項の通気孔の直径及び1個の面積に係る項目は適用されないものとする。

進化した保護帽「ヘルメッシュ」
  平成9年の秋に、あるベンチャー企業が「ヘルメッシュ」という保護帽を発表し、保護帽業界のみならず保護帽のユーザーの皆さまに驚きをもって迎えられました。この保護帽は、帽体をニ層構造にすることにより頭頂部に合計18個、509平方ミリメートルの通気孔を設けておりました。前掲の通気孔の指針では、第4項が適用されます。
 保護帽をかぶって自転車を漕ぐ試験を行った結果、頭頂部の通気孔は、帽子内部の湿った空気を効率的に逃がすことがわかりました。雨水が頭部を濡らさないように排水路を設けるなど、細かい配慮もなされていました。
さらに進化する
   「ヘルメッシュ」の考え方を生かして、もっと進んだ保護帽を作れるかもしれない、タニザワの技術部員の想像力がふくらみました。保護帽の前面に通気孔を設けたら、帽子の内部に風をとりこめないだろうか。前向きに歩くことにより帽子の中の空気を強制的に入れ替え(ベンチレーション効果)、温度や湿度を下げることができないだろうか。そんな研究を開発チームが始めました。
 通気孔の指針の第4項には、「通気孔部を防護し又は補強できる雨除け構造等が設けられている場合は---」と書かれています。具体的には探り棒(さぐりぼう)と呼ばれる治具で通気孔部を突き刺しても頭部に触れないような構造になっていなくてはなりません。もちろん墜落時用保護帽では前頭部での衝撃吸収性能試験や耐貫通性能試験もあり、前頭部に通気孔を設けることは思ったほど容易ではありませんでした。だいいち二層構造でカバーされた通気孔では、風が内部に入っていかないのです。
 平成10年初頭に開発を開始し、苦闘が始まりました。翌夏の発売を目指しましたが、なかなか思いどおりの効果が得られず、結局発売を延期せざるを得なくなりました。当初予定していた平成11年4月には、構造模型すら出来上がっていませんでした。
 最終的に設計が完了したのは平成11年の夏も終わろうとする頃です。ひさしのつけ根に並んだ合計11個、661平方ミリメートルの通気孔から取り込んだ空気が、後頭部上方にあけた合計5個、413平方ミリメートルの通気孔に流れる構造になりました。さらに頭頂部の開口が効果的なことから、合計6個、230平方ミリメートルの通気孔を頭頂部付近に設けました。帽子の表面にあけられた通気孔の面積の合計はなんと1,304平方ミリメートルにもなりました。

型 式 名 ST#1820F2Z
国家検定規格の種類
合格番号
飛来・落下、墜落時保護用
H2720、H2721
帽体質量
製品質量
315±10g
450±20g
帽体の長さ、巾、高さ 272mm、210mm、150mm

帽 体 材 質 ABS樹脂
内装の種類
ヘッドバンド
標準あご紐
F型
最新型EPA搭載
ワンタッチあご紐
外 観 図 下 図
効果の検証
 最終的な姿の模型をかぶって歩くとなるほど風が入ってくるようです。これはすごいぞ、という印象をうけました。しかしながら効果を検証しなくてはなりません。まず、通気孔の内側に風速センサーを貼り付けて、風の流れを調べました。これによると正面から受けた風量の約30%が通気孔を通り抜けて帽子の中に入り込み、さらにその1/3が後頭部の通気孔から出て行くことが明らかになりました。つまり風の流れが確認されたわけです。
頭頂部付近における通気孔の有無による温度変化
上記グラフは、頭頂部付近に設定した温度センサーの変化を基に作成しました。

 開発チームは次に「サーマルマネキン」を製作しました。これは頭部表面の温度を自由に制御するとともに蒸気を発散するものです。これが完成すると、帽子内部に30個の温度センサーを貼り付けて測定しました。この結果、風の流れにより帽子内部の温度のみならずマネキン表面の温度も下げる効果を確認しました。
サーマルマネキンによる温度分布測定
無風状態:
体温と外部の気温によりヘルメット内部に熱気が溜まりますが、通気孔から少しずつ放出されます。
通風状態:
前方から入る風により、ヘルメット内部の熱気が外気と入れ替わります。 頭部の温度も下がっていることがわかります。

命名「飛鳥」
 ヘルメッシュ II は平成12年6月1日に発売しました。発売にあたり「飛鳥」という愛称を定めました。アスカという音が新世紀に向けての最新型の保護帽を象徴するとともに、漢字の印象から空を飛ぶ鳥の爽快感を伝えたいと思います。
 一度屋外でかぶってみてください。「あ、スカ!」っとしませんか。

(平成12年度グッドデザイン賞受賞)