開発物語

「EPAヘッドバンド」開発物語

EPAヘッドバンド誕生から20年。谷沢製作所がヘルメットを被ったまま、片手で簡単にサイズ調整ができる、ラチェット式の新型ヘッドバンドを発売したのは2000年2月のことです。
「Easy」「Push release」「Adjustable」の頭文字をとって名付けたEPAヘッドバンドは、ヘルメットの使い方を変える画期的な新製品として高い評価を得、当社ヘルメットの代名詞ともなりました。
これまで、2度の製品改良を行いましたが、この秋より、さらに安定した被り心地と軽量化を実現した第4世代に切替えます。

「EPA」以前のヘッドバンド

我が国では1930年代半ばからヘルメットの普及が始まりました。当初は鉢巻状の革製ヘッドバンドの後部に紐が付いており、それを締めたり、緩めたりすることで、サイズ調整を行っていました。
その後、ヘッドバンドがプラスチックの成形品になると、片方のバンドには凸部を、もう片方には等間隔で多数の凹部を設け、好みの位置で両者をはめ合わせて調整するようになりました。
このように方法は変わりましたが、いずれにしても手元でヘッドバンドを調整した後、被って具合を確かめ、合わなければもう一度脱いで、手元で調整し直すという手順を繰り返さなければなりません。
これを途中でやめてしまうと、ヘルメットがぐらついたり、下を向いた時につばが目の上に被ってきたりします。頭にタオルを巻いた上にヘルメットを被るのも、汗取りの役割に加えて、ヘルメットがぐらつかないための現場の職人さんたちの知恵でもありました。

「かるメット」用ヘッドバンド 「かるメット」発売当時のヘッドバンド
伏せて置いておくと、凹凸が外れてしまう(写真では円内の3つの凸のうち右2つが外れている)。

「かるメット」用ヘッドバンド

当社では1988年に、軽量ヘルメット「かるメット」を発売しました。このシリーズは大ヒットし、特にゼネコン各社で当時、盛んに行われたCI戦略の一環として、新ロゴマークの施行に合わせて、次々に採用いただきました。
「かるメット」は軽量化と共に、内装体に用いる成形品の材質を従来よりも柔らかなものに変更することで、被り心地の向上を図りました。
しかし、ヘルメットを脱いだ後、伏せて置いておくと柔らかなヘッドバンドが曲がり、折角調整した位置が変わってしまうという問題が発生し、方々からクレームが寄せられました。
そこで、凹凸部を外れにくくする改良を行いましたが、今度はヘッドバンドの動きが悪くなり、来客などで使われる際には、不便でした。
ある時は、さる大手ゼネコンの社長の現場パトロールの際に、ヘルメットのサイズ調節に手間取ってしまい、後で当社の営業担当者がきつく叱られるという「事件」もありました。
このように、当時の「かるメット」は軽くて被りやすいものの、ヘッドバンドに関しては、大きな課題が残っていました。

欧米のラチェット付きヘッドバンド

ところで、欧米のヘルメットはあご紐が必須部品ではありませんので、使用中に脱げないためには、ヘッドバンドで頭にジャストフィットさせることが不可欠です。そのため、ダイヤルでサイズ調節ができるラチェット(つめ車)式のヘッドバンドがその使い易さから高い人気を集めていました。
このヘッドバンドはアメリカのMSA社が国際特許を持っており、世界中の多くのヘルメットメーカーが同社から供給を受けていました。
このヘッドバンドを用いれば、頭に被ったままサイズ調整ができるため、重い欧米のヘルメットでもぐらつきにくくなります。
当社でもこのような製品を、もっと軽く、安価で作れないものかと、考えておりました。

EPAヘッドバンドの開発 初代EPA
質量:55g
調整部ベルト幅:24mm
バックル部の幅:41mm

EPAヘッドバンドの開発

そのような中、社外の方からヘッドバンドに関する新たなアイディアを開示されたのは19987月のことです。
見せてもらった試作品は、かばんに用いるラチェット式バックルが、ヘルメットのヘッドバンドに留められたものでした。ただ、ダイヤルの代わりに、片側のバンドに指の引っ掛かりが設けられており、それを引き寄せることで、頭に被ったまま、片手で簡単に締め込むことが出来るというアイディアです。この引っ掛かりについては、既に特許が出願されていました。
当社では早速、このアイディアを採用し、すぐに開発に着手しました。しかし、製品化は予想以上に難しく、難航しました。
まず、動きがよく、それでいてツメが滑らないバックル部分の設計が、なかなか進みませんでした。また、このヘッドバンドは被るたびにサイズ調整を行うことが前提なため、従来の材質ではラチェット部分が摩耗してしまいます。そこで、新たな素材を探す必要がありました。
さらに、ヘッドバンド本体の成形に苦戦しましたが、これは樹脂メーカーの研究所に協力を依頼し、樹脂の流動解析を行ってもらいながら、少しずつ前へ進んでゆきました。
そして、漸く完成し、それを装着したヘルメットを発売したのは20002月です。ヘッドバンドが締まる時の「カチカチ」という動作音が心地よい製品ができました。
発売に当たり、「Easy」「Push release」「Adjustable」という、3つの特徴の頭文字を取って、「EPA(エパ)」と命名しました。
EPA」によって、それまで手元で行っていたヘッドバンドのサイズ調整を頭に被ったまま行えるようになりましたので、その後、我が国でもヘルメットの使い方が変わってゆきました。

「EPA」から「EPAⅡ」への改良 EPAⅡ
質量:54g
調整部ベルト幅:23mm
バックル部の幅:35mm

「EPA」から「EPAⅡ」への改良

新型ヘッドバンド「EPA」は初め、「かるメット」など7型式に絞って発売しましたが、大好評により、次々と搭載する型式を増やして、従来のヘッドバンドからの切替えが進みました。
中にはサイズ調節は一度でよいと、従来のヘッドバンドを選ばれる方もいましたが、ほとんどのお客様に使いやすいと言って頂きました。
普及が進むとともに、バックルが大きく、角が当たって痛い、という声が聞こえてきたため、2005年、バックルのサイズを小さくし、同時に量産性を高めた「EPAⅡ」に切替えました。

被り心地を向上させた「EPAⅢ」 EPAⅢ
質量:54g
調整部ベルト幅:23mm
バックル部の幅:30mm

被り心地を向上させた「EPAⅢ」

EPA」の2回目の改良は、それから3年後の2008年です。前回の改良でバックルを小さく、しましたが、それでも頭の小さな方が被ると、首に当たって痛いといわれることがあったため、より一層丸みを帯びた形状にしました。
さらに大きな変更点は、ヘッドバンド後部全体の形状を変えて、バックル位置を下げたことです。その理由は、バックル位置が高い時よりもヘルメットが安定するからです。
また、ヘルメットの使用者にとっても、より深く被っていると実感できることから、たいへん好評でした。

「EPAⅣ」への進化 EPAⅣ
質量:40g
調整部ベルト幅:18mm
バックル部の幅:24mm

「EPAⅣ」への進化

ここ数年、他社からヘッドバンドの軽量化にこだわった新製品が発売され、当社も目を啓かされました。
一般にヘッドバンドを華奢な設計にすると、帽体を安定して保持できなくなるため、被り心地を損ないがちです。
そこで、当社ではヘッドバンドを細くし、不要な部分を大胆に削るとともに、バックルを小さくして、「EPAⅢ」よりも13グラム軽量化すると同時に、バックル位置を変えないまま、ヘッドバンド後部をややフラットに近い形状に戻し、後頭部を包み込むようにすることで、被り心地の向上を実現しました。
2020年秋、新しい軽快なヘッドバンド「EPAⅣ」の開発が終了し、順次切替えを開始します。
20年目の「EPA」の大きな進化にどうぞご期待下さい。