開発物語

「シールド面付きヘルメット」開発物語

保護メガネは、作業中、思いがけず発生する飛来物や薬液の飛まつ、空気中に浮遊する粉じんなどから目を守る保護具です。このため、常に身の回りに置き、目の保護が必要な場合にはすぐに掛ける必要があります。

ところが、ヘルメットや安全靴と違って保護メガネは常時着装せず、携帯することが多いことから、いざという時に手元に無いために、負傷事故を引き起こすことがあります。このため、保護メガネを作業時にいつでも身近に置いて、すぐに使えるようにしたいというニーズが生まれ、シールド面内蔵ヘルメットのアイディアに結びつきました。

近年、目の保護に関する安全意識の向上により、シールド面付きヘルメットが普及しました。それに伴ってユーザーの要求事項が増えましたが、メーカーがそれに応えることにより、製品は急速に進化しました。

まずはじめに、当社のシールド面付きヘルメットの進化を、簡単に振り返ってみたいと思います。

製品の進化

(1)第一世代…鉱山用ヘルメット

当社の初代シールド面付きヘルメット(ST#133型)は、鉱業のお客様からの強い要望によって開発したもので、1966年に発売しました。1969年には、保護メガネメーカーと共願の実用新案特許が「面付保安帽」として登録されています。
このヘルメットは他社にない画期的な新製品で、鉱山以外の客先にも販売されましたが、期待どおりには普及が進みませんでした。(写真1)

(2)第二世代…ユーザー層の広がり

それでも、長い年月を経て、少しずつ製品の認知が進み、ユーザー層が広がってゆきました。このため1995年、新たに新型シールド面を開発し、それを当時の最新スタイルで人気上昇中のST#101型に装着して、発売しました。(ST#101EP-S)
新しいシールド面は、材質をアセチロイドからポリカーボネートに変更して、耐衝撃性能を向上させるとともに、シールド面を大きくして、顔の保護面積を広げました。
ところで、このヘルメットは労働省により定められた「保護帽の規格」に基づき、「飛来・落下物用保護帽」の型式検定を取得しました。衝撃吸収ライナーを入れるとシールド面の収納スペースがとれないことから、より安全性の高い「飛来・落下物、墜落時保護兼用保護帽(以下、飛墜兼用型)」の検定取得は断念せざるを得ませんでした。(写真2)

左:写真1 ST#133DP-S、右:写真2 ST#101EP-S

左:写真1 ST#133DP-S、右:写真2 ST#101EP-S

(3)第三世代…飛墜兼用型の発売 写真3 ST#141EZV-S

(3)第三世代…飛墜兼用型の発売

 1990年代になると、労働基準監督署の強い指導により、建設業を中心に衝撃吸収ライナーの入った「飛墜兼用型」が急速に普及しました。これと同時に、シールド面付きヘルメットでも、この「飛墜兼用型」のニーズが高まりました。
 1998年、帽体と衝撃吸収ライナーのわずかな隙間にシールド面を収納する工夫をして、ST#131型が完成し、「飛墜兼用型」の検定を取得しました。 衝撃吸収ライナーに押されて、シールド面の動きがやや悪かったものの、この製品はシールド面付きヘルメットの用途を大きく広げました。
 その頃、木造住宅の建設現場で多発していた電動くぎ打ち工具による目の事故の対策として、ST#131型が注目され始めました。いつでも使いたい時に身近にある、という点が評価されたのです。
 また、2000年には、ヘルメットを使用者の頭にワンタッチでジャストフィット出来る新開発ヘッドバンド「EPA」をST#131型に搭載しました。 シールド面付きヘルメットは構造上、ヘルメットが前下がりになる傾向にありますが、このヘッドバンドの採用により、頭上のヘルメットの安定性がが格段に増 しました。使い勝手が飛躍的に良くなったことからか、製品の普及が一気に進み、2000年のシールド面付きヘルメットの販売個数は、前年に対して3.4倍 に増えました。さらに2001年には透明ひさし付きのST#141EZV-Sをラインナップに加え、前年の4.6倍の個数を販売しました。(写真3)

(4)第四世代…製品の大幅な改良

シールド面付きヘルメットの普及に伴い、客先からの製品改良の要望が増し、シールド面の質的改良、摺動性の改良に取り組むことになりました。
シールド面自体の性能アップを図るため、それまでプラスチック板を曲げた加工品だったものから、メガネレンズと同じ射出成形品にすることにしました。メガネメーカーの全面的な技術協力の下に開発された新しいシールド面は、歪みや表面強度において、従来品とは比較にならない高性能が得られ、「HGシール ド」と名付けられました。
写真4は、新旧のシールドの歪みを視覚的に捉えるために、偏光フィルターを通して撮影したものです。写真左の従来品では、虹色の帯が乱れて歪みが確認できるのに対して、写真右のHGシールドでは、虹が均等に広がり、歪みが少ないことがわかります。
一方、シールド面の摺動性は、根本的に機構設計をやり直しました。試行錯誤を繰り返した後、2002年秋、新型HGシールド付きヘルメットが完成し、「シールドメット」の愛称を付けて、5型式を同時に発売しました。
その後も製品ラインナップを増やし、今日ではそれぞれ特色の異なる8型式の「シールドメット」を市販しています。
また、シールド面についても改良を継続的に行っています。現在、屋外作業用にスモークの入ったサングラス仕様の製品を開発中で、近日中に発売する予定です。

写真4 新旧シールド面の歪み(左:旧型シールド面、右:新型HGシールド)

写真4 新旧シールド面の歪み(左:旧型シールド面、右:新型HGシールド)

(5)全面シールド付きの開発 写真5 ST#0160-SF

(5)全面シールド付きの開発

 2006年に、電力会社の受託業務を行っている会社より、計量器や分電盤等を取り扱う作業時に、短絡事故で発生するアークから頭部及び顔全体を保護するヘルメットの開発要請がありました。
 この会社はそれまで、点検作業時の危険に備え、防災面の着用を義務付けていましたが、面を使用しない時に頭上で大変邪魔になるために、作業者から不評でした。
 そこで当社では、大型ヘルメットST#0160をベースに、帽体内に内蔵することが出来る全面のシールド面と専用ガイドシートの開発に着手しました。
 この当時、産業用ヘルメットに全面シールドを内蔵した製品は、乗車帽並みに帽体が大きな消防用ヘルメットを除いては類例がなかったため、製品化までに時 間が掛かりましたが、2007年11月、ST#0160-SFとして「飛来・落下物用」と「電気用」の検定を取得し、発売しました。(写真5)
 この製品に対して、当社に開発を依頼した会社が、耐アーク防御性に関する試験を行いましたが、心配されたシールド面から顔への回り込みもなく、効果が確認されました。
 しかしながら、他よりも大きな帽体とはいえ、余裕を持って全面シールドを内蔵するにはやや小さく、衝撃吸収ライナーを入れて「飛墜兼用型」にすることが出来なかったこともあり、幅広いユーザーには普及しませんでした。

(6)ST#162V-SD型の開発 写真6 ST#162V-SD

(6)ST#162V-SD型の開発

 このため、引き続き「飛墜兼用型」の全面シールド付きヘルメットの開発を行いました。製品の企画時にインプットされた要件は、次の通りです。

 

①「飛墜兼用型」「電気用」の検定取得
②軽量化
③シールド面の保護範囲を広く
④シールド面の防曇化
⑤シールド面のみの交換が可能
⑥シールド面を収納した時に、視野の邪魔にならないこと
⑦シールド面の高性能化
⑧内装体の交換が容易
⑨上方視界が広い透明ひさし付き

 

 これらを満たすため、新型帽体とシールド面の開発を一から行い、2010年3月、ST#162V-SDを発売しました。(写真6)
 企画時のインプット要件に関する、新旧ヘルメットの性能比較表は表1のようになります。
 この中で、⑧のワンタッチで内装体とあご紐が交換できるC内装は、汚れなどによる交換時だけでなく、絶縁用保護具に求められる半年ごとの定期自主検査実施時の着脱にも大変便利です。

  (新)ST#162V-SD (旧)ST#0160-SF
①検 定 飛墜兼用・電気用 飛来落下用・電気用
②質 量 505g(現:615g) 630g
③シールド面の保護範囲 162×196mm 140×175mm
④シールド面の防曇化 両面に防曇性能のある
ハードコート
防曇コートなし
(ハードコートのみ)
⑤シールド面のみの交換 ×
ガイドシートと共に交換
⑥シールド面収納時に視界の邪魔にならない シールド面の先端はひさしに沿って
曲げられ、視界の邪魔にならない
シールド面の先端40mmが帽体に収納できず、
視野に入る
⑦シールド面の高性能化 歪みが少なく表面硬度が高い
射出成形品
熱プレス成形品
⑧内装体交換の容易さ 4ヶ所の掛け具
ワンタッチで交換可能な新型C内装
8ヶ所の掛け具
従来のはめ込み式
⑨透明ひさし付き ×
製品改良の実施

新製品ST#162V-SDは、予想以上に幅広い職種で採用されましたが、特定の使用環境で、不具合が生じることがわかりました。このため、すぐに製品改良に着手し、2011年1月より、改良済みの製品の販売を開始しました。改良のポイントを紹介します。

(1)シールドの引き出しやすさ

ST#162V-SDのシールド面下部は使用していない時はひさしと重ね、視野の邪魔にならないように設計されていますが、あまりにぴったりと重なるため、片手では引き出すことは容易ではありませんでした。
そこで、シールド面の長さを10mm伸ばして、シールド面の先端がひさしより3mm前に出るようにしました。これにより、手袋装着時でも片手で容易に引き下げることができるようになりました。(写真7)
また、頻繁にシールド面の上げ下げをするユーザーのために、ひさしより11mm下がった位置でシールド面を止められるようにしました。

写真7 シールド面を延伸

写真7 シールド面を延伸
(2)チルトロック構造の採用

シールド面を引き出した状態から、前に押し出してロックすることができるようにしました。ユーザーの好み、使い勝手、メガネの有無に応じて、選択が可能です。防じん・防毒マスクも併用可能となりました(顔の形やマスクの種類により、シールド面に当たる場合があります)。また、前に傾けると、口元の閉塞感が軽減すると共に、面が曇りにくくなるメリットもあります。(写真8)

写真8 チルトロック機構(左:下げた位置、右:前に押し出してロック)

写真8 チルトロック機構(左:下げた位置、右:前に押し出してロック)
(3)歪みの低減

シールド面の下部に視界の歪みが目立つとの指摘があったため、シールド面の曲率を変更し、歪みを低減しました。

(4)シールド面の傷付き低減

帽体とシールド面との間の隙間を大きく取れるように、立体成形したガイドシートを新たに作りました(従来は平面成形品)。これにより、帽体との擦れによる傷付きの可能性を大幅に減らすことができました。

遮熱塗装について

最後に、屋外作業者に使われることが多くなった遮熱ヘルメットについて、簡単に説明します。
ヘルメットに遮熱塗料を塗布して、その内部の温度を下げて作業環境を改善する試みは、2007年頃から始まりました。その後、当社も塗料メーカーとの間で、遮熱性能と塗装効率が共によく、ヘルメットに適した遮熱塗料の研究を重ねてきました。
現在、ヘルメットメーカー各社で採用しているのは概ね、遮蔽材に酸化チタンを用いた機能塗料で、太陽光線を塗膜で反射拡散するものです。
注意すべきは、ポリカーボネートやABS樹脂製の帽体が溶剤に侵されやすいため、遮熱塗料が溶剤系の場合には、帽体に悪影響が及ぶ可能性があることです。選択にあたっては、遮熱塗料を塗布後でも所定の性能試験に全て合格することは勿論のこと、経年劣化が促進しないことを確認済みであることをチェックすべきだと思います。

※この文章は「電気現場技術」2011年7月号(株式会社電気情報社発行)に掲載された弊社営業部 谷澤直人の署名記事「シールド面付きヘルメットの開発と改良」の内容を一部変更したものです。