タニザワ

「ハーネス型安全帯」開発物語

2011.11.07

 我が国の建設業では従来、主に胴ベルト型の安全帯が使われてきましたが、ここ数年来、国内の大規模な建築現場を中心に、ハーネス型安全帯が使われることが多くなってきました。

 胴ベルト型は、墜落時に脊椎や腹部に大きな衝撃がかかるだけでなく、無理な体勢で吊るされたり、大きく振られて構築物に衝突する可能性もあるため、墜落を免れても障害を残したり、命を落とすこともあります。

 それに対してハーネス型は、墜落時に衝撃が分散され、無理な吊り下がり体勢にもならないため、より安全な保護具と言えます。ハーネス型の普及は、墜落による死亡事故の減少に大変有効です。

ハーネス型安全帯「安全吊帯」の誕生

 1950年(昭和25年)、谷沢製作所は安全帯の製造を開始しました。これが国産安全帯の第一号です。
 1953年(同28年)のカタログ(写真1)には、『タニサワ式安全吊帯は軽くて、丈夫に出来ております。高所の作業を安全に動作出来ますし、また不時の災害も防ぐことが出来ます』とあります。
 大変興味深いのは、安全吊帯に「ゐのち綱」とカッコ書きされていることです。つまり、我が国の命綱=安全帯は、ハーネス型に始まったことになります。
 なお、製品には麻製、純綿製、皮革製の三種類がありましたが、皮革製のものは馬具職人に依頼して製作していました。
 写真2は、1953年(昭和28年)に発売された安全吊帯でST#512という製品です。外観は現代の製品と言われても、何の違和感もありません。
 このST#512は、2000年(平成12年)に新型のST#550が発売されるまで、半世紀の長きに渡って、改良を重ねながら、安全吊帯の代名詞として販売を続けました。

ハーネス型安全帯雌伏の半世紀

ハーネス型安全帯雌伏の半世紀 写真3 1980年(昭和55年)当時のST#512

 このように、日本の安全帯の歴史はハーネス型に始まりましたが、これは当時、安全保護具のお手本にしたアメリカで、ハーネス型安全帯が使われていたから に他なりません。当社ではこの商品を、鉱山、炭鉱、セメント工場、採石場などに紹介し、普及を図りましたが、容易ではなかったようです。
 因みに同じカタログには、胴ベルトにD環のみが付いた商品をST#510「腰つな」という名で掲載し、『建築業、橋梁、鉄骨作業に於いて、この安全腰綱 が多大の効果を挙げております』と紹介しています。この商品は腰のD環に、別に用意されたロープの先端を結びつけて使います。現在使われているような、ラ ンヤード付きの胴ベルト型安全帯は、数年後、昭和30年代に入ってから商品化しました。
 当時は安全のために道具(安全保護具)を用いるという観念が希薄でした。その代わり、電信柱での作業や法面作業などで、安全を確保しながら作業をやり易くする作業帯兼用の特種安全帯の普及が一足早く進みました。
 やがて、さまざまな業種で作業環境の大規模化が進み、安全確保が作業効率の向上に直結するようになって初めて、純粋な「命綱」としての安全帯が使われる ようになりました。建築業で積極的に胴ベルト型安全帯が使われ始めたのは高度成長期、それも超高層ビルの建築が行われるようになった昭和40年代のことで した。

「安全帯構造指針」と「安全帯の規格」の改訂

 かねてより欧米では、安全帯と云えばハーネス型を指していました。このことは日本の産業界でも、安全に関する欧米視察を重ねる中で認識されておりましたが、実際に国内で使用されたのは、ごく限られた職種にとどまっておりました。
 ところが近年、墜落事故防止が大きく叫ばれる中で、安全帯の実使用が急速に進むにつれて、墜落時に命拾いをする事例が増えるとともに、宙吊りになった際の衝撃や圧迫で、脊椎や内臓に大きな障害を残したり、救助が間に合わない事故が発生するようになりました。このため、万一墜落した場合にも、より安全に生還することが意識されるようになってきました。
 このような流れの中で、1999年(平成11年)1月、労働省産業安全研究所より発表された新しい「安全帯構造指針」に、初めてハーネス型安全帯が盛り込まれ、製品の性能基準が示されました。続いて2002年(平成14年)には、ハーネス型が明示された「安全帯の規格」が厚生労働省より告示され、ハーネス型安全帯は新しい時代に入りました。

吊られ心地のよいハーネスST#550

吊られ心地のよいハーネスST#550 写真4 ST#550

 谷沢製作所ではこの新指針に準拠した形で新製品の開発を行い、翌2000年(平成12年)7月、ST#550を発売しました。また、同年10月には胴ベルトのない簡易型のST#555も発売し、少しずつ販売本数を伸ばしてゆきました。
 ST#550は肩ベルトと腿ベルトを中継リングで繋いだ構造をとり、「吊られ心地」を第一の特徴に掲げた製品でした。また、肩、胴、腿の各ベルト色を変えて、装着をし易くしました。
 新「安全帯の規格」が告示された2002年頃から大規模建築現場で、ハーネス型安全帯を試験的に導入する動きが始まり、当社は製品供給とその改良に協力することになりました。
 折しも、この2002年6月に、当社ではランヤード自体にショックアブソーバ機能を持つ新製品「スーパーランヤード」を発売しました。従来、新構造指針 に準拠するためには、衝撃吸収用に大きなショックアブソーバを接続する必要がありましたが、これが背中で大変邪魔になっておりました。この「スーパーラン ヤード」を用いると、この背中のゴロツキ感から解放されるため、ユーザーの皆様より絶大な支持をいただきました。

作業性重視のST#551「匠」

作業性重視のST#551「匠」 写真5 ST#551「匠」

 2005年(平成17年)5月、軽量化、フィット感の向上、作業性向上、購入後のランニングコストの低減を開発目標にした新製品ST#551を発売し、後に「匠」と名付けました。
 質量は従来のST#550の80%、広幅で薄いベルトを採用し、しなやかでソフトな使い心地になりました。また、作業の中で邪魔になる腿ベルトの位置を 自由に調節でき、更に胴ベルトが肩ベルトに沿って自由にスライドしますので、従来よりもスムーズに動けます。加えて、ベルトなど痛んだパーツを個別に交換 することが出来るため、大変経済的な製品です。
 このST#551「匠」はベストセラーになり、現在でも全国の大規模建築現場で数多く使われています。

シンプルスタイルのST#552「無双」

シンプルスタイルのST#552「無双」 写真5 ST#552「無双」

 2009年(平成21年)4月、低価格化を狙ったシンプルスタイルのST#552を発売し、愛称を「無双」としました。
 股ベルトにはかつてのST#512と同じV字型を採用しました。幅広いユーザーの皆様に、自信を持ってお勧めしたい製品です。
 これからも谷沢製作所では、ハーネス型安全帯のパイオニアとして、使い易い製品の開発、改良に努めて参ります。