タニザワ

保護帽の衝撃吸収メカニズム

2008.07.03
保護帽の構造と名称

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衝撃吸収のメカニズム

保護帽の大きな役割りの1つは、衝撃吸収です。外部からの衝撃を保護帽全体(帽体と衝撃吸収ライナー、ハンモック)で吸収して、頭に伝わる衝撃を最小限に食い止めることにあります。保護帽は硬さが命のように見えますが、実は柔らかさによって頭部を守っています。それでは衝撃吸収のメカニズムを見てみましょう。

(第1段階)ハンモックが伸びる

 最初にハンモックが伸びて衝撃を吸収します。このために帽体とハンモックの間に十分な隙間が用意されています。帽子のかぶりを深くするために不容易な改造をすると、ハンモックが伸びた時に帽体と頭部が接触し、衝撃が頭部に直接伝わってしまい危険です。また古い保護帽は、ハンモックが経年劣化を起こして硬くなり、衝撃を受けた際に切れやすくなりますので、内装品は1年ごとの交換をおすすめします。

(第2段階)帽体のひずみ

 次に帽体がひずんで衝撃を受け止めます。このとき衝撃吸収ライナーが内装されていると、より大きな衝撃を吸収することができます。FRP(ガラス繊維強化プラスチック)製の保護帽では、このとき帽体が割れてエネルギーを吸収します。帽体はハンモックと同様、年月がたつと材質の劣化がすすみます。日本ヘルメット工業会ではFRPの保護帽は5年、帽体表面に連結鋲のない熱可塑性樹脂(PC、ABSなど)のものは3年を目途に交換していただくようおすすめしています。特に古い熱可塑性樹脂の帽子は衝撃吸収性能が著しく劣化している場合があります。

(第3段階)帽体の復元

 帽体が衝撃を受け止めた後、帽体は元の形に戻ろうとします。このとき起こる反発エネルギーは人間の頚椎に障害を与えます。FRPの帽体は、割れることによりこの反発エネルギーを吸収して、頚椎への障害を最小限に抑えます。

 

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保護帽の性能

厚生労働省の「保護帽の規格」の中に、保護帽の衝撃吸収性能についての定めがあります。

使用区分 ストライカ 落下高さ 打撃部位 規格値
飛来落下物用 半球型
5kg
1m 頂部 衝撃荷重が4.90kN以下
墜落時保護用 平面
5kg
1m 前頭部
後頭部
・衝撃荷重が9.80kN以下
・7.35kN以上の衝撃荷重が 3msec(0.003秒)以上継続しない
・4.90kN以上の衝撃荷重が4.5msec(0.0045秒)以上継続しない
 ところで人間の頭に衝撃が加わると脳にどのような影響を及ぼすのでしょうか。次のグラフは、1960年にウェイン大学が発表した「前頭部打撃による脳しんとうを起こす限界」に関する論文に基づき、衝撃荷重とその継続時間を示したものです。

 

 厚生労働省の規格値は、この脳しんとうの限界曲線を十分に意識したものであることが判ります。

墜落時用保護帽の効用
 ところで職場での危険は、物が落ちてきたり高所から墜落するだけではありません。実際に座っている姿勢から後ろ向きにひっくり返って後頭部を打ち、亡くなった方がいます。たった50cmの高さから鉄板の上に転倒した時の衝撃荷重を計測すると、保護帽なしでは17kN(キロニュートン)にもなります。この衝撃は脳しんとうを超えて頭蓋骨骨折を引き起こすほどの値です。この時もし、飛来落下物用の保護帽をかぶっていたら、衝撃荷重は約2/3に減りますが、なお脳しんとうの限界域を超え、脳に障害を与える可能性があります。
 ところが衝撃吸収ライナーの入った墜落時用保護帽ならば、衝撃荷重は5kNを下回ります。さらに転倒の高さを倍の1mにしても衝撃荷重は7kN程度に抑えられることから、墜落時用保護帽の安全への有効性の一端をご理解いただけるのではないかと思います。
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